大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)6762号 判決

原告 堀井正之 外1名

被告 吉田圭子

主文

一  被告は、原告らに対し、各金46万5000円及び、これに対する昭和63年6月14日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

原告らは、請求の趣旨として、「被告は、原告らに対し各金475万円及びこれに対する昭和63年6月14日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。」及び主文第3項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、次の通り請求原因を述べた。

一  原告堀井正之(以下「正之」という)は、昭和57年9月27日被告との婚姻届をし、正之と被告の間に昭和57年11月27日原告堀井智(以下「智」という。)が出生した。

二  正之と被告は、昭和61年6月30日横浜地方裁判所において同庁昭和61年(モ)第533号(同庁昭和58年(ヨ)第784号債権仮差押事件に対する異議申立事件)における和解の内容として協議離婚することとし、同日離婚届をした。

三  右協議離婚に際し、未成年である智に対する親権者には正之がなるが、監護は被告においてこれをなし、被告は正之と智を次の通り面会、交通させることと約束された。

1  1か月に1回(原則として全日)正之と智は、面会する。

2  右の他に正之と智は6か月に3回面会し、この面会を利用して正之は智の心身の発育、健康、生活状況を考慮し、これを乱さないように配慮し、被告と協議のうえで智と宿泊旅行することもできる。

四  被告は、右約束にもかかわらず、別表(一)〈省略〉記載のとおり面会させなかつたり、面会させても全日という原則を守らず、また面会の日時を設定しても一方的にこれを履行しなかつた。これがため、正之と智はいずれも父、娘が面会の機会を得られなかつたために精神的打撃を受けた。また、被告は正之と智が旅行することができるという約定にもかかわらず、これについて一顧だにしていない。

五  右打撃を慰謝するために、原告らに対し

1  本来面会できるはずの回数につき、面会の機会も設定されなかつたときは、1回につき金20万円

2  一応面会できたが、被告側の都合によつてついでに面会の機会を作つたり、十分な時間的余裕を持たなかつたときには、1回につき金10万円

3  面会の約束にもかかわらず、これが破棄されたときには1回につき金30万円

の慰謝料をもつて相当とする。

六  被告が、右のように父と娘の面会を妨害したことにより父と娘の基本的人間関係の形成が十分になされていない。右基本的人間関係の破壊に対する精神的打撃に対しては、右各条項の慰謝料とは別に各金500万円の慰謝料をもつて相当とする。

よつて、原告らは被告に対し、右精神的苦痛に対する慰謝料の総額金930万円の内各金475万円及びこれに対する昭和63年6月14日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告は、適式の呼出しを受けながら、本件口答弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

但し、慰謝料の金額については、原告らの主張する金額が相当とは認められない。正之が、実子である智を思う心情は当然のものであり、協議離婚に際して、智と1か月に1回、そのほかに6か月に3回面会できる約束になつていたのに、面会できなかつたことによる精神的損害の存在は明らかに認められる。しかし右面会は定期的に行なわれるものである性質上、一般社会通念に照らして、本来面会できるはずの回数につき、面会の機会も設定されなかつたときは、1回につき金20万円、一応面会できたが、被告側の都合によつてついでに面会の機会を作つたり、十分な時間的余裕を持たなかつたときには、1回につき金10万円、面会の約束がされたにもかかわらず、破棄された場合については1回につき金30万円という慰謝料は高額に失する。

そこで、一応面会できたが、被告側の都合によつてついでに面会の機会を作つたり、十分な時間的余裕を持たなかつたときについて別表(一)を検討すると、これに該当するとされる場合のうち、午後2時から面会した場合が1回、午後2時半から面会した場合が6回、午後7時から面会した場合が1回である。しかし、同表記載の期間中(昭和61年7月から昭和62年12月まで)智は満3歳から満5歳の幼児であつて、その年代の幼児の身心の状態を考慮すれば長時間の面会は無理であることからすると、午後2時ないし午後2時半からの面会が不当に短時間のものであつて、十分な時間的余裕を持たなかつたものということはできないし、原告らが午前11時40分から面会がなされた場合(昭和62年8月2日)及び午後1時から面会がなされた場合(昭和62年9月19日)については全日の面会がなされたとしている一方で、午後2時ないし午後2時半からの面会をことさらに時間的余裕のないものとする根拠に乏しいと考えられる。午後7時から面会した場合(音楽会)については、短時間の面会しかできなかつたことが認められる。よつて、以上を総合すると、午後2時から面会がなされた場合及び午後2時半から面会がなされた場合については1回あたり金5000円、午後7時から面会がなされた場合については1回あたり金1万円の慰謝料を相当とする。

面会の約束がなされたにもかかわらず、それが破棄された場合、原告らの落胆、精神的打撃は大きかつたものと認められる。よつて、面会の約束がされなかつた場合については、1回あたり金2万円、面会の約束がされたにもかかわらず、破棄された場合については1回あたり金3万円の慰謝料を相当とする。

父と娘の基本的人間関係の破壊に対する精神的打撃に対しては、右の慰謝料とは別に各金10万円の慰謝料をもつて相当とする。

以上の基準によつて慰謝料を算定すると、別表(二)〈省略〉のとおりである。

右の事実によれば、原告らの請求は、被告に対して各金46万5000円の慰謝料及びこれに対する昭和63年6月14日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、仮執行宣言の申立は相当でないから却下し、訴訟費用の負担につき民訴法89条及び92条但書をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢崎正彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例